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『文学的商品学』をめぐって――小説に登場する「モノ」の読み方、描き方

   
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生活感のない小説なんて信用できない

金井 こうして取りあげている小説を、読んで引用して書き写すときって楽しいでしょ(笑)。他の章でもそうですが、斎藤さんの「引用」の巧さね。ちゃんと笑えるようにできている。

斎藤 本当に読んでほしいのは引用の部分ですから。私が笑わそうとしているのではなく、元の小説がこうだから私のせいではないんです、と言ってます。音楽について取りあげた「バンド文学」の章は、大沢在昌の『新宿鮫』がおかしいと言いたいがために設けたみたいなものです。ただ、地の文も少しはないと成立しないので、仕方なく理屈をこねている(笑)。歌詞もすごいですが、音楽を表現するのに、「サウンド」という言葉を多用したり、「ギター」が「うね」ったり。

『軽いめまい』

『軽いめまい』
金井
美恵子著
講談社文庫
560円(税込)
ISBN4062733765

金井 「バンド文学」の章では大江健三郎も取りあげていましたが、少し擁護すると、発禁になった『政治少年死す』で、「オーキャロル」を聴きながらオナニーをするシーンは、音楽の使い方がなかなか良かったですよ。いずれにせよ、小説が一番古くから扱っていたのは、衣食住ですから、小説家はそこに力を入れて書くことがあるのですけれど、でも、どこかでもっと重要なのは精神性だとか思っていますよね。読む方もそうかもしれませんね。

斎藤 せっかく読むのだから、精神の栄養にしたいと考える。みんな人生論が好きですし。でも、衣食住に意識が向いているかどうかは、小説全体にも影響してくる気がします。私はそういう描写を読むのが好きだから、生活感のない小説なんて信用できん、と思ったりする。以前、 金井さんの『軽いめまい』の書評で、「金井美恵子ともあろうものがこんなことを書いていていいのか、もっと天下国家について論じるべきではないか」みたいなことを若い男性の批評家が延々と書いていて(笑)、ああ、このおもしろさが理解できないんだなと思って、可哀相だった。


小説家という商品〜作家的商品学

金井 この『文学的商品学』というタイトル、「作家的商品学」としても読み変えることができます

『文壇アイドル論』

『文壇アイドル論』
斎藤美奈子著
岩波書店
1,785円(税込)
ISBN4000246135

よね。でも、この中で扱われている作家で、作家として「商品」足り得ているのは、三島由紀夫と石原慎太郎だけでしょ。そこが、少し弱いかな。グラビア雑誌が多く出回りはじめた時期と重なったこともあって、三島と慎太郎から作家自身の商品化がはじまったわけですが、小説家という商品として、あの二人は通用していたと思うんですよ。その後、商品として成立する作家は、ちょっと見当たらないですけどね。

斎藤 確かに、ああいうスター性のある作家はいない。村上龍、春樹だって、少し違いますよね。

金井 村上龍は商品として「行政」系じゃない(笑)。『13歳のハローワーク』で、中学生の就職なんか心配していたくらいだから(笑)。大江健三郎だって初期のころは、商品化が目指されたわけだけれども(笑)、自分からさっさと降りてしまっているし。政治系に移行する人もいるでしょう。

斎藤 『文壇アイドル論』でその辺りを狙ったのですが、いまの作家は商品としては弱いですよね。

金井 やはりアイドルで、スターではない。それがいいか悪いかは別として。


批評を作家が読むということ


金井 『文学的商品学』の中で取りあげた作家には、本を送られたの? なんでこんなことを伺ったかというと、この間、加藤典洋が「一冊の本」で連載していた『小説の未来』がうちに送られてきたんですね。私を取りあげた項目もありましたし、私も、「一冊の本」に書いていますから、当然といえば、当然ですけれども。ご自分が「クソ」呼ばわりされた大江さんにも送ってるんでしょうかね。

斎藤 あの頃の「一冊の本」は本当にスリリングでした。加藤さんが、金井さんの『噂の娘』について書く。すると次の号で金井さんがすかさず、「加藤典洋の言っていることはおかしい」と応戦する。その横では小倉千加子が『結婚の条件』を連載している(笑)。PR誌には珍しくホットでした。

金井 でも、ホットにならないわけですよ。私が書いた後、加藤典洋が次の回で、「金井さんはああ言っていたけれど、自分はこう読むんだ」と書けば、ホットになる。書かないから、なりようがないんです。もちろん、どうお読みになって、どうお書きになっても、それは批評の自由ですけれど。

斎藤 現役作家を相手に論陣を張るという意味では、加藤さんも立派でしたけど。

金井 だから、斎藤さんもたとえば石原慎太郎や丸谷才一や渡辺淳一に送ったのかな、とふと思っただけなんですけどね。

斎藤 そういうことは考えないようにしてました。送ったら、わざわざけんかを売ることになるじゃないですか。自分がけんかするのはいやだ。

金井 大丈夫よ。大人の作家は無視します(笑)。

『「競争相手は馬鹿ばかり」の世界へようこそ』

金井美恵子さん
最新エッセイ集
『「競争相手は
馬鹿ばかり」の世界へ
ようこそ』

講談社
1,890円(税込)
ISBN4062120771

斎藤 たしかに私はすでに無視されっぱなしですけど(笑)。でもね、実は、金井さんもふくめて、作家の方に読まれるのが、一番いや。「読まないでください。お願いします」という感じで、いつもそーっと出しているのです。

金井 今回、『文学的商品学』を読ませていただいて、斎藤さんの批評の魅力は、やっぱり、今これだけ笑っちゃえるものが「文学」と呼ばれているのだと読者に差し出すところにあるのだと思いました。渡部直己さんがそういう文芸時評をやらなくなってしまいましたから、貴重です。

斎藤 渡部直己さんや秀実さんの時評で、勉強したところはずいぶんあります。でも、悪口の言い方という点でなら、私、金井さんのご本で一番学んだと思いますよ(笑)。それに、私はけなす気はないんです。ほら、こんなに面白いでしょと言いたいだけ。

金井 結果的に今の文学はこんなにひどいものだということを書いている(笑)。本当に批評するのに値する小説はあるんでしょうかね。

斎藤 ありますよ。金井美恵子だっているし、加藤典洋さんのご本にもいっぱい出てくるじゃないですか(笑)。

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